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託児 親にも自由時間 長浜「預かり自然体験」

 気軽に子どもを預け、親に自由な時間をつくってもらおうと、長浜市の女性が2022年から始めた「預かり自然体験」に注目が集まっている。週末や学校の長期休暇中に開催しており、市内の川や森で遊んだり、作物の収穫をしたりと季節ごとに催しを変えて行うのが特徴。リピーターも多く、これまでに全国から延べ1000人以上の子どもたちが参加している。(清家俊生)

 11月23日昼。長浜市浅井地区にある八丈岩に子どもたちの笑い声が響いた。この日は、大阪から訪れた年少~小学4年の計12人が山登りや川遊び、火おこしなどをして楽しんだ。小学4年生の女児(10)は2回目の参加といい、「大阪ではできない遊びができて、うれしい」と笑みを浮かべた。

 ここでは、子どもたちのやりたいことが優先される。山道の途中で木の実を拾う子もいれば、のこぎりを使って丸太を切る子もいる。「自身で色々な発見をして、気づきを感じてもらえれば。そこから新しい動きも生まれる」。主催者の熊谷理美さん(38)はそう話し、子どもたちを見守った。

 熊谷さんが預かり自然体験を始めたのは、自身の経験からだ。京都市の財団法人で働いていた13年に長男を出産。2年後に育休から復帰したものの、平日は仕事、休日は家事や育児に追われ、体調を崩すことがたびたびあった。

 周囲は「休日も誰かに預けたら」と声をかけてくれた。一方で「平日も預けているのに、土日も預けるなんて子どもがかわいそう」と言われることもあり、罪悪感にさいなまれていた。

 20年3月、近江八幡市から夫の出身地である長浜市に移住。その5か月後に3人目の子どもを出産したのをきっかけに財団法人を退職した。

 落ち着いて子育てができる環境になったことで1人目の育児の大変さを思い出し、何か社会の役に立ちたいと考えるようになった。21年に長浜市の起業支援プログラムを受講し、翌年から市内の耕作放棄地を借りて、ミニトマトやトウモロコシなどの栽培とともに、預かり自然体験を始めた。

 当初は食品ロスを減らしたいとの思いから、農業体験塾をメインの活動に据えていた。そんな中、インターネットやテレビで「子育て罰」という言葉を見聞きするように。自身のつらい経験も相まって、子を預けることで親がやりたいことができ、子も預け先で楽しめるようにできないかと、23年に農業体験塾を「預かり自然体験dive」に刷新した。

 月1回だった開催日を徐々に増やし、現在は月2回の通常開催と、長期休暇中に2~3日間の特別プログラムを実施している。22年度の参加者は延べ160人だったが、24年度は同368人と2倍以上に。今年10月には累計で1000人を超えた。

 約3年前から子どもを熊谷さんの自然体験に預けている長浜市の母親(42)は「買い物をしたり、たまった家事をしたり、自分の時間をつくれるようになった」と喜ぶ。

 熊谷さんの元には東北や関東、甲信越のNPO法人などから「参考にしたい」と問い合わせが相次いでいるという。「将来的には市外でも活動したい」と熊谷さん。「子育て中でも、介護中でも自分の人生は自分のもの。親の負担やストレスを軽減させる一助になれば」と話している。

子育て罰 「チャイルド・ペナルティー」という経済学、社会学上の概念を訳した言葉。子を持つ働く女性が、子を持たない女性よりも賃金が低い状態など、育児をしていることで被る経済的・社会的不利益を指す。

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