<下>人口減・過疎
長浜市北部に位置する西浅井町の山門地区。7月上旬の朝、公民館の駐車場にパンや菓子、野菜やジュース、アイスクリームなど約300点を積んだ軽トラックが到着した。スーパー大手「平和堂」(彦根市)の移動スーパーだ。荷台の側面が開き、商品の陳列棚が顔を出すと、買い物袋を手にしたお年寄りらが「今日は何を買おうかな」と早速品定めしていた。
市が同社などと連携協定を結んで6月から始めた取り組みで、市内12地区を週1回のペースで回る。営業時間は1か所につき10~15分間だが、70歳代の女性は「この年では買い物に行くのもしんどい。近くまで来てもらえば楽だし、品ぞろえも満足です」と話した。
長浜市の人口は、旧長浜市と6町が合併した2010年には約12万6000人いたが、25年は約11万1800人と、この15年間で約1万4200人減った。65歳以上の高齢化率も30・8%(4月時点)で高島、米原市に次いで県内13市の中でワースト3位となっている。
過疎や高齢化が進めば、商店も減る。西浅井町にはバスやタクシーしか買い物の足がなく、最寄りのスーパーまで往復で1時間かかる住民もおり、移動スーパーがなければ生活を維持するのも難しくなりつつある。市北部政策局の永井正彦局長は「このままでは消滅する自治会が出て、除雪や道路の維持管理が立ち行かず、地域の荒廃を招きかねない」と危惧する。
県の人口は2013年の141万7499人をピークに減少傾向に転じ、今年2月には約17年ぶりに140万人を割り込んだ。南部は京阪地区のベッドタウンとして人口の流入が続いているものの、長浜市や高島市など北部での減少がそれを上回っているためだ。
民間有識者らでつくる「人口戦略会議」は昨年4月、「消滅可能性自治体」を公表。人口減が進んで行政運営が困難になる自治体のことで、県内では高島市と甲良町が分類された。
人口約6300人の甲良町は町全域が過疎地域で、子育て世帯が彦根市など近隣市町に多く転出している課題もある。転出者へのアンケートで要因の一つに宅地の少なさがあることが浮き彫りとなり、危機感を強めた町は、近江鉄道尼子駅前の農地に約100区画の宅地整備を計画し、数百人規模の人口増を当て込む。担当者は「このままでは町が本当に消滅しかねない。何とか早く計画を進めたい」と焦りを隠さない。
縮む社会の中で、どのような将来像を描き、どう導いていくのか。大きな展望を示す役割は、政治が担っている。
(おわり。この連載は、矢野彰、中村総一郎、清家俊生が担当しました)