県に京都市 10年支払い合意
琵琶湖を水道水の水源としている京都市は、2025年度から10年間、年2億3000万円の「感謝金」を支払うことで滋賀県と合意した。自治体間で水の使用料を払う義務はないが、市は大正時代から1世紀以上、水源保全の取り組みへの感謝として支払いを続けている。(矢野彰)
大正時代から
琵琶湖の水は「琵琶湖
」を通じて京都市内に流れ、市内の水道水の99%を賄っている。当時の河川法の定めで、京都市は1914年(大正3年)度から「水利使用料」として滋賀県に年1600円を支払い始めた。国の通達で使用料が不要になった後も相当額を寄付金として払い、終戦後の47年からは「琵琶湖疏水感謝金」の名目になった。
滋賀県は下水道事業や琵琶湖での水草の刈り取り、森林保全など水源や水質を守るため、2024年度は395億円を投じるなど、毎年多額の費用をかけている。感謝金には、水道を使う京都市民のお礼の気持ちも込められているという。
金額の見直し
感謝金に算定基準はないが、金額は両者が協議して主に10年に1度見直している。社会情勢などを踏まえて増えており、1970年代後半には年9000万円で、95年度からの20年間は年2億2000万円が続き、2015年度からは1000万円増の年2億3000万円となっていた。
今回の見直しでは、物価や人件費高騰による琵琶湖保全のコスト増など互いの事情を踏まえ、34年度まで現在の年額で据え置くことで合意した。京都市の25年度予算案が可決されれば、両者で契約を交わす。
協力関係象徴
感謝金は、水道料収入が原資となっている。ただ、京都市の水道使用量は、ピーク時の1990年度には2億1300万トンだったが、節水機器の普及などで2023年度には約25%減の1億6000万トンに。水道料収入も10年前から約10億円減った。
人口も減少に転じており、いつまで感謝金を払うかは京都市次第だが、市上下水道局の小堀善光・経営企画課長は「琵琶湖疏水から多大な恩恵を受けており、琵琶湖の水がなければ京都市は立ちゆかない。感謝の気持ちは今後も表したい」と話す。
滋賀県の山本直矢・琵琶湖保全再生課長は「感謝金は、琵琶湖の水を通じた京都市との協力関係の象徴」とする。今後10年間の金額が折り合ったことを受け、三日月知事も「例えば教育や文化、観光の分野でどんな連携ができるか、契約更新までに協議する」と述べ、京都市との関係強化を図る考えを示している。
明治に完成 京都再興の礎
大津市と京都市の間の山地を貫く琵琶湖疏水は総延長約30キロの運河で、明治時代に京都府が計画。京都市が整備を進め、1890年(明治23年)に水力発電やかんがい、工業用などに使われる第1疏水、1912年(明治45年)に水道水用の第2疏水が完成した。
整備の背景には、京都衰退の危機があった。幕末の1864年に起きた「禁門の変」で市街地が焼失した上、明治に入って首都が東京に移り、人口が大幅に減少。船による物資輸送などで産業振興を図ろうと計画された。疏水の完成で水力発電が始まり、織物、絹糸、時計などの生産につながったほか、街に電灯がともり、市電も運行。琵琶湖の水が京都再興の礎になった。
疏水は2020年に文化庁の「日本遺産」に認定され、行楽シーズンには疏水を通って大津市と京都市を結ぶ観光船が運航されている。疏水の施設は京都市が管理しており、滋賀県が琵琶湖の水を止めることはできない。