美術家・岡本高幸さん
琵琶湖の形や深さを立体的に体感できるアート作品を大阪芸術大特任講師で美術家の岡本高幸さん(46)が制作し、大津市の自然体験学習施設「オーパルオプテックス」で展示されている。通常見ることのできない湖底の形を地図データをもとに再現しており、岡本さんは「触ったり寝そべったりして、琵琶湖を自分の体で思い思いに味わってほしい」と期待している。(角川哲朗)
大津で展示 立体アート 寝て触れて
岡本さんは大阪府東大阪市出身。京都市立芸術大で彫刻を専攻、同大大学院美術研究科を修了後に特別支援学校で美術を教える機会があり、「(目の)見えない人や障害がある人も一緒に楽しむことはできないか」と考え、模索してきたという。
2019年に障害や年齢、言語などの違いに関係なくあらゆる人が美術を楽しめる「ユニバーサルミュージアム」に出会う。奈良県橿原市のイベントで「古墳の形をしたアメ」をつくり、そのアメをなめて「舌で古墳を味わいながら」史跡や歴史に触れるツアーを行うなど、誰もが気軽に楽しめる美術を目指してきた。
その後、大学在学中に釣りを楽しみに琵琶湖によく訪れていたこともあり、「誰もが形を知るシンボルとしてなじみがあり、知っている部分と知らない部分のイメージがつきやすいのでは」と構想。約半年かけて24年夏に完成し、「とろける
―湖底キャスティング―」と名付けた。冬に湯船につかっているときに「体が湯に溶けていく感覚」から着想を得て、「体と作品の境界がいつの間にかなくなって、とろけてしまうようなイメージで作った」という。
作品は、国土地理院の地図データをダウンロードし、琵琶湖の形や深さなどを可視化した後、3Dソフトを使って立体化。それを発泡スチロールで形にし、繊維強化プラスチックで成形した。北湖で最も深くなっている湖底のほか、竹生島(長浜市)や沖島(近江八幡市)などが突き出ている様子が縦265センチ、横125センチ、高さ45センチの枠の中に精巧に再現されている。素材はゴツゴツとしており、触れ方によっては痛く感じることもあるが、岡本さんは「痛みという感覚も大事にして、作品に触れてほしい」と話す。
子どもたちにはあえて遊び方を教えず、思い思いに触ってもらうことで作品との対話を楽しんでほしいと期待する。実際に寝そべって遊んだ男子児童は「体を琵琶湖に沈めたような感じで楽しかった」と喜んでいた。
岡本さんは、「今後は月の表面のクレーターを再現するような作品を作りたい」と話し、「老若男女や障害のあるなしにかかわらず誰もが気軽に美術作品と向き合えるようなものを作っていけたら」と意気込んでいる。
作品はオーパルオプテックス1階のラウンジで11月中旬まで展示予定。午前10時~午後5時。問い合わせは同施設(077・579・7111)。