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特殊詐欺題材 アート

近江八幡市出身・千賀さん

 自分には関係ないと思っている人が立ち止まって考えるきっかけになれば――。近江八幡市出身で写真家の千賀健史さん(42)=写真=が、母親が詐欺の標的になったのをきっかけに、啓発の意味も込めて、特殊詐欺に着想を得た芸術作品の制作に取り組んでいる。(藤岡一樹)

見えにくさ表現 社会の課題 探って 

特殊詐欺グループのアジトを再現した写真=千賀さん提供
特殊詐欺グループのアジトを再現した写真=千賀さん提供
証拠を隠滅するために使われる水溶性の紙を用い、顔写真を溶かした作品=千賀さん提供
証拠を隠滅するために使われる水溶性の紙を用い、顔写真を溶かした作品=千賀さん提供

 ビジネスホテルの一室のような写真は、特殊詐欺グループのアジトを再現した1枚だ。室内に干されたタオルが生活感を漂わせる一方で、机の上には複数のスマートフォンが置かれており、キャッシュカードをだまし取ろうと銀行職員などをかたって電話をかける「かけ子」が、連日この部屋で〈仕事〉をしていることをうかがわせる。

 昨年8月、東京都内で開かれた滋賀ゆかりの作家11人が集まった企画展「Made in Shiga」で、千賀さんは、こうした写真など約50点を高さ約3メートル、幅約9メートルの壁面にちりばめた作品を展示した。

 大学在学中に写真家を志し、卒業後から活動を開始。自殺など社会問題をテーマに、写真をベースとした作品を発表し続けている。

 特殊詐欺に関心を持ったのは2019年頃。70歳代の母親のもとに地元の警察署から、摘発した詐欺集団の名簿に母親の住所や電話番号などが記載されていたと連絡があった。想像以上に身近な犯罪だと感じ、作品制作を始めたという。

 報道などで情報を集めたり、知人の紹介でやり取りした元「かけ子」の男性から「仕事感覚だった」という話を聞いたりする中で、特殊詐欺は全体像が「見えにくい」犯罪という点に着目した。

 被害者に「かけ子」の姿は見えない。キャッシュカードなどを高齢者から直接だまし取る「受け子」は指示役の姿を知らない。上層部は被害者の顔を知らず、お金しか見えていない。「闇バイト」という言葉のように、細分化された犯罪行為は一種の仕事となり、罪悪感を抱きにくくなっており、少年なども安易に手を出してしまう現実がある――。

 こうした見えにくさを表現しようと、特殊詐欺グループがメモなどの証拠を隠滅するために使う水に溶ける紙をアート作品の素材にすることを思いついた。自身の顔写真をスマホのアプリで加工するなどして、特殊詐欺の容疑者を連想させるイメージを作成し、水溶性の紙に印刷。水に溶かして顔を崩し、乾かすことで見えにくい犯罪の実態を表した作品を完成させた。

 東京での展示会に出した作品は、再編集したものが県立美術館(大津市)に収蔵される予定。千賀さんは「特殊詐欺がなくならないのはなぜか、その背景にある社会の課題とは何なのか、作品から『違和感』を受け取ってもらえたら」と話している。

 昨年11月には、制作拠点をこれまでの東京都多摩市に加えて、東近江市にも構えた。現在は「戦争に向かっていく世界」に関心があり、太平洋戦争中に大津市など全国各地に落とされた模擬原爆に関する作品づくりなどを進めている。

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[紹介元] YOMIURI ONLINE 特殊詐欺題材 アート

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