滋賀医科大(大津市)は県内で見つかる変死体を対象にコンピューター断層撮影法(CT)で死因を調べ、必要に応じて解剖する体制を整備した。死因究明は犯罪捜査や病気の研究などに不可欠だが、警察から依頼された医師が体表を観察するなどして行う「死体検案」では体内の異常は見えにくいのが実情。CT画像を使って検案できるようにして、死因究明の精度向上を目指す。(東川直央)

県内では死因不明の変死体が年間1900体程度見つかるという。同大の一杉正仁教授(社会医学)によると、県内の各警察署から嘱託された救急医や開業医など100~200人程度が検案を担当。その際、発見時の状況や病歴、傷の有無、レントゲン写真、血液検査の結果などから、犯罪や虐待、事故、病気などとの関連を推定する。

それにより、事件性が疑われれば司法解剖、死因がわからない場合は承諾解剖などを同大で実施する。
だが、手足以外の骨折や内臓の損傷、肺炎、体内での大量出血などは外からは見えにくく、死因究明に不慣れな医師も多いため、正確性には課題があった。
新しい体制は今年9月に厚生労働省のモデル事業に採択され、先月から本格運用が始まった。変死体が見つかれば、保管する警察署から同大に搬入し、今年4月に設置された遺体専用のCT装置で内部の3次元画像を撮影。検案する嘱託医に提供し、死因究明に役立ててもらう。
ただ、遺体と治療中の患者では臓器の映り方などが異なるため、嘱託医にはCT画像の読影方法も指導し、資質の向上を図る。
同大は運用開始に合わせ、変死体の発見現場に向かうことの多い救急救命士も非常勤で3人雇用した。死因究明に救命士が関わるのは全国初で、将来的な業務拡大の可能性や、それに必要なトレーニングメニューを探る狙いもあるという。
一杉教授は「死因究明は治安の維持や公衆衛生の向上、個人の尊厳の保持などに重要なので、せめてCT画像を使って決めるべきだったが、滋賀県内では導入が遅れていた。この事業を通して検案前のCT撮影を標準化し、CTの重大性に対する理解を広めたい」とする。事業は来年3月末まで続け、次年度以降の継続の可能性を探る。
