国天然記念物 湖北の冬の三大スター
長浜・野鳥センターでシンポ
国の天然記念物で「山本山のおばあちゃん」の愛称でも知られるオオワシ、琵琶湖で冬を越すコハクチョウと並び、野鳥愛好家らの間で〈湖北の冬の三大スター〉と呼ばれる渡り鳥がいる。絶滅が危惧されている大型のガン「オオヒシクイ」だ。(林華代)
江戸期 権威の象徴 ■ 風力発電計画 渡りに影響懸念
オオヒシクイは全長約1メートルとコハクチョウを一回り小さくした大きさで、体は黒褐色、黒いくちばしの先端と脚はオレンジ色をしている。名前の通り、ヒシの実を好んで食べる。「グワン、グワン」という鳴き声から昔の人はガンと呼び、沼や湖から出ないため「沼太郎」の異名も持ち、俳句では秋の季語になっている。
昭和初期までは日本に多く渡ってきていたが、乱獲などで激減。1971年に国の天然記念物となった。県内には10月初め頃に飛来し、長浜市の湖北野鳥センター周辺の琵琶湖や、市内の池や湾で羽を休める。
71年は、水鳥を支える湿地の保全に関する「ラムサール条約」が採択された年でもある。これを記念して国連が定めた「世界湿地の日」の2月2日には、同センターでシンポジウム「ヒシクイの謎を解き明かす」が開かれ、研究者らが語り合った。
「
の里親友の会」(事務局・宮城県)の池内俊雄さんは、浮世絵の近江八景「堅田落雁」を挙げ、「日本人にとって秋を知らせる鳥。江戸時代の人々は暑い夏の終わりにガンの絵を飾り、秋を待ち焦がれた」と解説。また、東北地方の伊達藩や南部藩などが生け捕りにして徳川将軍家への初献上を競うなど、「ヒシクイは権威の象徴だった」と語った。
日本鳥学会員の須川恒さん(77)(京都市山科区)は、ロシアの研究者と協力して、羽の生え替わりのためにガン類がとどまるカムチャツカ半島の湖からヒシクイが日本に飛来していることを確認したエピソードを披露した。
一方、シンポジウムでは、長浜市余呉町と福井県南越前町にまたがる山林で進む風力発電事業の計画を心配する意見も出た。
計画地やその周辺は
類のイヌワシやクマタカなどの生息地で、風車と衝突する「バードストライク」が懸念されている。事業者は環境影響評価の準備書で「ガン・カモ・ハクチョウ類の渡りは確認されなかった」としているが、三日月知事は意見書で「実態把握が不十分な可能性がある」として追加調査を求めている。
この点について、琵琶湖ラムサール研究会代表の村上悟さん(48)は、事業地と琵琶湖の間にヒシクイの渡りルートがあるかもしれないと指摘。「風車がヒシクイの飛来に影響を及ぼす可能性がある」と憂慮しつつ、「今後の発信器による調査でルートが把握できるようになれば」と解明への期待感も示した。
オオヒシクイが湖北地域で過ごすのは、あと10日ほど。2月末までには多くが北に帰る。コハクチョウよりも警戒心が強く、同センターは「臆病な鳥なので近づきすぎず、そっと観察してほしい」と呼びかけている。